ロースターズレポート2._富士ローヤル1kg焙煎機の特性~投入量と豆温度の関係
自家焙煎 KOBORIです。コーヒー焙煎機のお話で、かなりコアな内容です。
読者限定なネタで申し訳ないですが(笑)、富士ローヤル1kg焙煎機の特性を調査しました。投入量で表示温度が変化しやすいので少量を焙煎するときの内容です。
ご参考になれば幸いです。
【背景と目的】
富士ローヤル製の焙煎機(R101)を用いて自家焙煎のコーヒー豆を販売しています。焙煎機の外観は図1aのとおりです。右側の筒上のドラムが焙煎する部分で左下の部分は焙煎した豆を排出して冷却する部分です。
当店のように小規模な焙煎店では焙煎する量は毎回一定ではなく、その時の注文状況により常に変化します。このため200g程度の少量から最大容量の1kgまで任意の量に臨機応変に対応する必要があります。
販売用以外にも、サンプル豆の焙煎を行う際はさらに少量の150gでの対応も必要です。
R101は最大容量1kgまでの焙煎が可能です。半熱風焙煎機と呼ばれる構成で、焙煎機内部の構成の概要は図1bの通りです。
鋳鉄製の回転ドラム内に豆が投入され、下からガスで加熱されます。ガスによる熱は、強制排気により吸引されるため回転ドラム内に引き込まれ、熱風となって豆にあたります。
ドラムに触れることによる直接的な加熱と引き込まれた熱風による加熱が同時に行われるため、この半熱風焙方式はコーヒー豆の個性を引き出しやすいといわれ、広く用いられている方式です。
一般に焙煎を行う場合に温度は重要な値です。狙いの焙煎度になるように取り出しタイミングを計る目安に用いられます。1ハゼ開始温度や単位時間当たりの温度上昇値率(ROR)といったパラメーターはコーヒー豆の風味に決定的な影響を及ぼします。
コーヒー豆の焙煎は温度ですべてが決まるような単純なプロセスではないですが、正確な温度を把握することは基本的に重要です。
本機の温度測定は図1bのように、回転ドラム内部に取り付けられた熱電対に豆が触れることで豆温度が計測されます。このため熱電対に触れる豆の量により表示温度が変化することが予想されます。
豆の量が少なくなるほど熱電対に触れる豆が少なくなるため、正確な温度が表示されずに空間中の温度に近くなります。実際に250g投入時と500g投入時では煎りあがった豆の焙煎度合いは同じであっても、1ハゼ開始温度や焙煎終了時の温度はずれて、少量のほうが低い表示になります。
このような問題を避けるには毎回の焙煎量を固定して常に定格の量を焙煎すればよいのです。しかし、付加価値の一つに焙煎豆の鮮度を求めるのであれば、その時に必要な量のみを焙煎し、異なる量の焙煎に柔軟に対応する必要があります。
用いている焙煎機R101はガス圧による火力調整とダンパーによる排気量の調整機構を備えています。投入量が多い時は火力と排気量を増やし、少ない時これらの値を小さく調整することで250g〜1000gの焙煎量に応じた運転が可能です。
そして安定した運用を行うには投入量による温度表示の変化を十分に把握しておく必要があります。今回この関係を調べたので報告します。
【温度測定の方法についての説明】
①標準条件
基準となる焙煎プロファイルとして投入量800gの場合を図2に示します。
投入温度は100℃で、投入後の温度、一分間あたりの温度上昇率ROR(Rate Of Rise)の時間変化です。これは個人でいろいろ設定があると思いますが、今回はこのような設定で行ってみました。
このプロファイルでブラジル産サントスNO2を焙煎して、2ハゼが始まった直後の状態で取り出しました。1ハゼ開始温度172℃、焙煎完了温度はそれぞれ198℃でした。このときの焙煎度合いはシティーローストで、投入前の生豆と焙煎後の豆の重量比 は0.838でした。
(重量変化による評価の妥当性はすでに調べて当HPに掲載してありますので、よかったら参考にしてみてください)
②投入量を変えた場合の条件
同じブラジル産サントスNO2を用いて投入量を100g~800gと変えて焙煎を行い、1ハゼ開始温度、煎り上がり時の温度の表示と投入量の関係を調べました。
投入量を変えてもRORの変化が小さくなるようにガス圧と排気ダンパー設定を変えて、すべてシティーローストで取り出しました。
各投入量に対する焙煎の条件を表1に示します。
実際の温度プロファイル、RORを図3a,図3bに示します。投入温度はすべて100℃で行ったため、投入量が多いほどターニングポイントの温度が低くなります。RORはほぼ同じで、温度プロファイル全体が平行移動するため全体の焙煎時間はややながくなります。
【温度測定の結果】
各投入量での焙煎結果を表2に示します。
ここで、デベロップタイムは1ハゼ終了から取り出しまでの時間としました。一般的には1ハゼ開始からの時間を指しますが、ご注意ください。
1ハゼ開始温度と煎り上がり温度と投入量の関係を図4に示します。
400g以上の投入量では1ハゼ温度、煎り上がり温度ともに一定ですが、400g以下では重量が少ないと急激に減少。
1ハゼ開始の真の豆温度は投入量には依存しないはずなので、その温度が重量で変わるということは、温度が正しくされていないと考えてよいです。
投入量が少ないほど真の値より低い温度が表示されることが判明しました。 煎り上がり時の豆の重量変化を図5に示します。表2にも記載してありますが、重量比は0.836 ±0.002以内の変化で焙煎度合いは等しいと考えて問題ないです。煎り上がりの判断は、焙煎中の豆のしわの伸び/色/ハゼ音を総合的に考慮して取り出し、そのときの温度を記録しました。
図4中の煎り上がり温度も投入量が400g以下では真の温度よりも低く表示されています。図6には1ハゼ開始時間と煎り上がり時間を示しますが、400g以上でも一様に長くなる傾向になりますが、ターニングポイントでの温度低下分をそのまま反映しているためで特に異常ではないと考えられます。
投入量400g以上の表示温度が真の温度として、その温度からのずれを図7に示します。 温度のずれは400g以下で急激に起こり、250gでは1ハゼ温度、煎り上がり温度ともに7℃程度ずれます。150gでは10℃以上になります。
試飲
参考まで焙煎した豆をすべて試飲し、カッピングによりその味を比較しました。カッピング方法は10gの粉に対して、167gの熱湯を注ぎ4分放置。上澄みをすくって苦みや酸味を確認しました。
どの焙煎豆も苦みや酸味といった焙煎度合いによる差は感じられず、同一の焙煎状態になっていました。 このように、本機種では投入量を変えると焙煎中の豆温度は同じでも熱電対で表示される値が異なるります。400g以上で安定に温度表示をし、それ以下では急激に乖離が起こり低い、250gでは7度も低い温度表示になることがわかりました。
【考察】
今回使用した焙煎機「R101」では、図7のように投入量と表示温度の関係があることがわかりました。このことから、少量投入時の注意事項を考察します。
400g以上では安定した表示温度になりますが、この時は熱せられた豆が常時熱電対に触れているか、その時間が十分に長いためと考えられるます。コーヒー豆自体がドラムに接して温度を受け取り、それが熱電対に伝わる状況です。あるいは熱風の熱を吸収して熱電対に伝わるのかもしれません。また豆が反応で発熱する場合もあります。
一方少量では図1bのように熱電対にあたるコーヒー豆が少ないため空間温度を測定しているためと思います。 いずれにしても少ない場合は豆自体の温度が正確に表示されなく、豆の量がわずかに変わると表示が急激に変わります。
このような状況では少量焙煎時には、投入量のほか、豆の大きさ、外気温度などで表示温度は敏感に変化すると考えられます。温度表示の再現性は悪くなり、温度のみを目安にした焙煎は不可能になります。温度のみで焙煎を管理するのは非常に困難で、例えば取り出し温度が2℃異なると焙煎度合いは1ステップ変わります。
したがって、少量焙煎時の表示温度は目安にしかならず、煎り上がりは目視や音などの勘と経験が最も重要になります。そしてそれが十分に発揮されれば、ダンパーと火力の調整で100gの焙煎にも十分に対応できます。
【まとめ】
1kg焙煎機「R101」の温度表示を調査しました。
定格量に比べ少量投入時は表示温度は乖離して低く表示されます。少量250g時で約7℃低く表示されるため、温度管理のみで少量焙煎は困難であることがわかりました。
少量投入時の 煎り上がりは目視や音などの勘と経験が最も重要になります。そしてそれが十分に発揮されれば、ダンパーと火力の調整で100gの焙煎にも十分に対応できます。
【お礼】
以上、読んでくださりありがとうございました。
同型機種をご使用の方以外にも参考になれば幸いです。 そして、このような客観的な測定データをもとに議論が深まることをコーヒー業界に期待したいと思います。
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